ぼっこメモ

メモですから、ほんと。メモです。

若者たちのAqua(アクア):東北ユースオーケストラ 2022年 盛岡公演

 

東北ユースオーケストラの東京公演が、いよいよ明後日となりました。

それで、昨年の盛岡公演で経験した出来事を、書いておきたいと思います。

 

 

昨年、盛岡公演に行った時のこと。

演奏会場のホールに入ると、舞台の上で、数人の若者グループが演奏していました。

本番のオーケストラの演奏が始まる前に、団員たちが3、4人の少人数グループに分かれて、かわるがわる舞台の上に現れ、一曲ずつ、小曲を演奏していくのです。

 

 

これはきっと、団員たちにとっては、リハーサル的な意味合いがあるのだと思います。オーケストラとして、全員揃って演奏する前に、少人数で簡単な三重奏や四重奏をして、会場の雰囲気に慣れるのでしょう。

 

そしてお客さんたちは、ホールに入った瞬間から、若者たちの演奏を聴きながら、開演までのひと時を、ゆったりと過ごす事が出来るわけです。

いいシステムですね。

 

それで私も、自分の席について、もらったパンフレットなどをパラパラ見ながら、ぼんやりと、演奏に耳を傾けていました。

すると、何番目かに出てきたグループが、坂本龍一の「Aqua」(アクア)を弾いたのです。

 

それは高校生くらいの、本当に若いグループでした。

三重奏だったか四重奏だったか、もう記憶が定かでないのですが。

とにかく、弦楽のアンサンブルでした。

 

それでですね。

その若者たちが弾くAquaを聴いていたら、突然、涙が出てきたのです。

もう、涙が次から次へと溢れて、どうしようもない状態になってしまいました。

 

なぜそんなに涙が出るのか、自分で全くわかりません。

若者たちは、ただ普通に、Aquaを弾いているだけです。

 

そしてその演奏は、特に素晴らしく卓越したものという訳ではありませんでした。

どちらかというと素朴で、控えめで、抑制された印象を受けました。

若者の演奏ですから、ところどころ音の伸びが足りなかったり、不安定さを感じさせるところもありました。

でも、その一音一音が、すーっと真っ直ぐ自分の中に入って来て。

どうしようもなく心を揺さぶるのです。

 

ああ、Aquaというのはこういう曲だったんだ。

そう思いました。

 

 

実を言うと、私はそれまで、Aquaという曲があまり好きではありませんでした。

聴いていただければ分かる通り、Aquaというのはメロディが単純で、大袈裟といいますか。ちょっと派手なんですよね。

特に後半のメロディが、聞いていて気恥ずかしさを感じさせるような気がして。

どうも好きになれなかったのです。

 

でもその曲を、若者たちの演奏する、素朴な弦楽で聞いているうちに。

そして、訳もわからず、涙を流しているうちに。はっきりと分かったのです。

Aquaというのは、こういう若者たちのための曲だったのだと。

 

Aquaというのは、こんな風に、

自分の未来に漠然とした不安や畏れを抱きながらも、

その未来に向かって真っ直ぐに進んで行く、若者たちの曲なのだと。

そうはっきり分かったのです。

 

そして、それを弾く舞台上の若者たちの姿は、

きっと、かつての私自身の姿でもあるのです。

その若さは、既に自分の中では失われてしまった物であり、

もう絶対に、二度と手に入れることができない物なのだと。

そんな風に、思い知らされた感じがするんですね。

 

素晴らしい若さを持ち、無限の可能性を秘めた若者たちが、

舞台に立ち、アンサンブルを奏でている。

そして一方では、そんな若さをもう完全に失ってしまった自分が、

観客席にじっと佇んで、その素朴な音を聴いている。

そんな特別な関係性が、きっと涙を流させたのだと思います。

 

これは、一年経った今にして思えば、きっとそういう事だったのだなあ、

と思い返す事ができるのですが。

その時には、全く訳も分からず、ただただ泣き続けるだけでした。

観客席の椅子に座ったまま。

 

やがて、その高校生グループは演奏を終え、

会場のぱらぱらとした拍手を受けて一礼し、ステージを去って行きました。

そして次のグループが、また舞台に現れ、次の曲を演奏し始めます。

 

私はしばらく、呆然と席に座ったままでした。

一体、自分の中で何が起こって、こんな風に泣いてしまったのか、

全く分からなかったのです。

 

そして、少し時間をおいて、私は席を立ち、

洗面所で顔を洗って、気持ちを落ち着かせて席に戻ったのでした。

 

 

これが昨年、東北ユースオーケストラ盛岡公演で経験した出来事です。

あの高校生たちの演奏は、私が今までに聴いたどんな演奏よりも、

印象深いものになりました。

プロの演奏会では決して得る事のない、貴重なものだったと思います。

 

昨年も、これについては何度か書こうとした事があるのですが。

その時は上手く書けませんでした。

やはり、時間をかける事で見えてくるものってあるんだな、と思います。

 

そんな訳で、今年も、東北ユースオーケストラの演奏会が近づいてきました。

今年はもう、盛岡の公演は終わり、東京の公演へ行きますが。

果たして、どんな事を感じる事ができますか。とても楽しみなのです。