さて。
それから翌朝どうなったのか。
彼は犬を連れて、また海岸の散歩に現れたのか。
でもその話をする前に、順を追って、
まずはその日の午後にかけて起こったことを書きたいと思います。
これがまた、ちょっと不思議で印象深い出来事だったのです。
その日、私は取引先の方に、お酒の工場を案内していただきました。
ピスコというお酒を造っている工場です。
ピスコというのは、日本ではあまり知られていないと思いますが、南米ではとてもポピュラーで、伝統的なお酒です。
簡単に言うと、ブドウを原料にして作った蒸留酒。つまりブランデーですね。
南米特産のブランデーと思って下さい。
蒸留酒なので、アルコールは高いです。40%くらいあります。
ですから一般的には、ピスコサワーという簡単なカクテルにして飲まれています。
なんだか、カルピスサワーみたいでしょ。
泡の上にのっているパウダーは、シナモンです。
実は、この白い泡と濁りは、卵です。
卵白を混ぜて泡立てることで、こういう風に白く濁ったサワーになるんです。
甘くて美味しいお酒なので、女性向きだと思います。
チリでは、このピスコサワーがとてもよく飲まれていて、
家庭ごとに、色んなファミリー・レシピがあるのだそうです。
そのピスコを作っている大きな工場が、ラ・セレナから車で1時間ほどのところにあり、有名な観光地になっているのです。そこに案内していただきました。
でも正直言って、私は別に、ピスコに興味があったわけではありません。
ただ単に、取引先が用意してくださったスケジュールにピスコ工場の見学が盛り込まれていたので、何も考えずについて行っただけです。
ところが、ところが。
実はこの、ピスコ工場のある場所というのが、とても不思議で特殊な場所だったのです。