さて、翌朝。
障子窓から差し込む明るい光と、ウグイスの声で目を覚ましました。
時計を見ると、7時前。
布団から起き出し、障子を開けると、鮮やかな緑。
晴れたいい天気。なんとも爽やかな山の朝です。
それから、こたつを覗いてみると。
おお、やっぱりいました。茶トラです。
思わず、笑みがこぼれます。
昨夜、のそのそと部屋を出て行く後ろ姿を見たのは覚えているのですが。
きっとその後、また戻ってきたのでしょう。
よっぽど、ここのこたつがお気に入りのようです。
よしよし。
なんとなく満足した気分で部屋を出て、
洗面所で顔を洗い、歯を磨きます。
鏡で左目を見ると、昨夜の充血はきれいに治っていました。
ああ、よかった。
部屋に戻ると、7時半の朝食まで、まだ少し時間があります。
せっかくなので、朝の散歩をしましょう。
浴衣からズボンとTシャツに着替えて、部屋を出ます。
部屋の引き戸は、少し開けたままにしておきます。
茶トラがいつでも出入りできるようにね。
もう、いつでもそうします。
玄関に行くと、女将さんがいました。
おはようございます、と挨拶をして、外へ出ます。
素晴らしい朝の光、緑が眩しいです。
澄んだ空気と、鳥のさえずりの中を、ゆっくり、ゆっくり歩きます。
ほんの短い散歩です。
坂の手前まで歩いて、戻ってくるだけ。ただそれだけですが。
清々しくって、爽やかで。
まるで生き返ったような気持ちがしました。
宿に戻ると、ちょうど7時半。
食堂で朝食をいただきます。
右側にある、紙に包まれた丸いのは、温泉卵です。
やっぱり温泉ですからね。これがなくちゃいけません。
とはいえ、ぬる湯温泉の場合、とても卵が茹でられるような温度ではないのですが。
食堂のテーブルには、カトウくんもいました。
浴衣姿でご飯を食べています。
私はゆっくりと時間をかけて食べ、
食べ終わった後も、ゆっくりとお茶を飲みました。
せっかく湯治に来ているのですからね。ゆっくり、ゆっくりです。
そして食堂を出ると、トイレを済ませて部屋に戻りました。
ちなみにこの旅館、古い建物ですし、トイレは共同なんですが、
ちゃんとシャワートイレがありますよ。
部屋に戻り、こたつを覗いてみると、まだ茶トラが寝ていました。
起こさないように、そっと足をこたつに入れて、ごろんと寝ます。
そのまま二度寝しようか、それとも朝湯に行こうか、迷ったのですが。
しばらく寝転んでいたら、ちょっと食べ過ぎて重かったお腹も、
いい感じに戻ってきました。
やはりここは、朝湯へ行きましょう。
なにしろ湯治に来ているのですからね。
というわけで部屋を出て、渡り廊下を歩き、浴室へ。
ガラガラと戸を開けると、先客は1名。
カトウくんです。
昨夜と同じように湯につかり、じっと目を閉じています。
きっとカトウくんは、朝食の後、すぐ朝湯に来たのでしょう。
やはり達人の趣があります。
私も昨夜と同じように、ぬる湯につかったり、沸し湯で温まったり。
朝なので、髭も剃って、さっぱりとしました。
やがてカトウくんは、ぬる湯から上がり、
シャワーを浴びて、浴室を出て行きました。
チャンス到来!ひとりの時間です。
私は脱衣所に行き、スマホを持って戻りまして、
温泉の写真をぱしゃりと撮りました。
前回に載せた、この写真です。
そしてその後、またひとりで、窓の外の緑を眺め、
ざばざばと流れる湯の音を聞きながら、
心ゆくまで朝湯を楽しんで、部屋へと戻ったのでした。