食堂に入ると、オビワン老人と、サカモトさんがいました。
私も合わせて、男性3人。みんな一人旅のようです。
静かな食堂の中、3人それぞれのテーブルで、
それぞれのペースで食事をします。
私はまた、ビールが欲しいなと思いまして。
女将さんに声をかけて、一緒に食堂を出ました。
食堂から玄関に出たところに冷蔵ケースがありまして、
そこにビールがあるのです。
どれにしようかな、と銘柄を選んでいたところ、
廊下から猫の鳴き声が。
あれ?と思ったら、向こうから黒猫が元気に姿を現しました。
ついさっきまで、私の布団の上でぐっすりと眠り込んでいた黒猫が。
「あれまあ、この子は。今までどこで寝てたの?」
女将さんが、そう黒猫に話しかけます。
私は心の中で、「私の布団の上で寝てました…」と思いつつ、
選んだ缶ビールを持って、食堂に戻ったのでした。
さて、おいしい食事が終わりまして。
またいつもの通り、散歩の時間です。
さっきの黒猫が外にいるかな?
そう思いながら玄関から出ると、
いました、いました。
黒と茶トラ、今日は2匹が揃っています。
この時は、カメラを持ってなかったのですが。
わかりやすいように、前日の写真をもう一度つけますね。
黒はこの写真の左側にある、木の枝に登っていました。
さっきまで、私の布団でぐーぐー寝ていたのに、えらい違いです。
やっぱりこの時間、外で遊ぶのが日課なのでしょう。
一方、茶トラは、写真の右側。
赤い車が止まっているあたりの草むらに寝そべっていました。
2匹それぞれに、夕暮れの外の空気を楽しんでいるようです。
ちょうどそこへ、年配のご夫婦が現れました。
立ち寄り湯から帰られる、地元のお客様のようです。
玄関のほうから、二人で話をしながら、ゆっくりと歩いてこられたご夫婦は、
駐車場にしゃがみ込んで猫を見ている私に気づきました。
そしてご主人の方が、車のドアを開けながら私に向かって、
こう言いました。
「その二匹の猫は、親子だよ」
な、なに?
私は驚いて聞き返しました。「え?そうなんですか」
「そう、親子なんだよ」ご主人は言いました。
「木に登ってる黒いほうが、子供だよ」
「本当ですか?」私はまた聞き返します。
「でも、あっちの茶トラのほうが、ずいぶん若く見えるんですが」
ご主人は首を傾げて、
「あれ?間違いだったかなあ」と言いました。
そして、うーん、どうだったっけ、という感じで奥さんを見ます。
「もう一匹、白い猫がいたんじゃなかったかしら」
奥さんが言いました。
「ああ、そうだ。昔は白い猫がいたんだよ」ご主人が言います。
「その白い猫が、黒い猫を産んだんだ。真っ白から真っ黒が生まれたんだよ。ずいぶん前の話だけどね」
「へえ〜、そうなんですか」私は答えました。
ご夫婦は、そうして車に乗り込み、帰って行かれました。
私は草むらに残って、二匹の猫をぼんやりと眺めました。
木に登っている黒猫と、草むらでじっとしている茶トラ。
この二匹の関係は、結局、謎のままでした。