さて、次の朝。
ニャーニャーと鳴く、猫の声で目が覚めました。
ふと見ると、布団の上に茶トラが乗っています。
そんな目で見つめられても…。
時計を見ると、まだ5時半です。眠い…。
どうしたのでしょうか、こんな時間に。
遊んで欲しいのでしょうか。
仕方ない。
布団に入ったまま腕を伸ばし、よーしよーしと撫でてあげます。
ゴロゴロと喉を鳴らして、気持ちよさそうです。
そうして茶トラを撫でていると、
明るくなった窓の外から、ウグイスの声が聞こえてきました。
ホーホケキョ
またしばらくして、
ホーホケキョ
静まり返った朝の空気の中、爽やかに響くウグイスの声。
布団の上では、茶トラがくるんと丸まって、
やがて、すやすやと眠り始めました。
こんなにおだやかな朝を迎えたのは、
生まれて初めてかもしれません。
ウグイスの声に耳を傾け、
茶トラのお腹が呼吸に合わせてゆるやかに動くのを、ぼんやりと眺めていると、
世界はあまりにも平和です。
ああ、なんておだやかな朝。
なんて幸せな時間。
ぬる湯温泉、旅館二階堂。
ここに来てよかった。本当によかった。
心からそう思いました。
幸せな時間は、あっという間に流れ、
気がつけば7時。
そろそろ歯を磨かなくては。
7時半から朝食ですからね。
おーい。
悪いけど、もう起きるよ。
ぽんぽん、と叩いて茶トラを起こします。
茶トラは、うーんと体を伸ばし、布団から降りてくれました。
やれやれ、これで私も布団から出れます。
布団から降りた茶トラは、部屋の中をぐるりと回り、
廊下へ出るかなと思ったら、そうでもなく。
窓のそばへ行ってニャーニャー鳴いています。
試しに窓を開けてみると、ぴょんと庭へ降りて行きました。
朝の散歩に出かけるのかな。
私は洗面所へ行って歯を磨き、食堂で朝食をいただきました。
写真の真ん中ほどにある、白い小皿はドレッシングです。
これが別皿になっているところに、心づかいを感じますね。
きっと、ドレッシングを使わないお客様もいらっしゃるからなのでしょう。
そして、朝食の後は、また外へ。
朝の散歩で、木々の緑を感じます。
散歩を終えて、部屋に戻ってぼーっとしていると、
なんと再び、廊下から猫の鳴き声が…。
茶トラが部屋に入ってきました。
茶トラも散歩を終えて、戻ってきたのでしょうか。
こたつ布団を持ち上げると、するすると中へ入って行きました。
そうして、こたつに入る茶トラを見届けた後、
私は朝湯へと向かったのでした。
部屋を出て、浴室へ向かう途中の廊下で、
窓の脇に、葉っぱが一枚落ちていました。
なんとなくいい感じです。
浴室へと歩いていく途中で、女将さんとすれ違いました。
女将さんは、「あら」という感じで立ち止まり、
「今、お部屋へ行くところだったんです。お茶とお湯の交換です」
と言いました。
見ると、手にポットとお盆を持っています。
「ああ、そうなんですね、ありがとうございます」
私は答えました。
考えてみると、昨日はお茶を飲んでいません。
それで、お湯ポットの交換だけお願いしました。
女将さんは、わかりました、と答えた後、
手に持ったお盆を示しました。
「これ、おやつにお饅頭も置いときますから」
見るとお盆の上には、おいしそうなお饅頭がありました。
うれしいですね。
なんだかウキウキしながら朝湯へと向かったのでした。