これは今から何十年も前、私が中学1年の時に、美術の先生から聞いた話です。
仮に名前を、K先生としましょう。
K先生は、とても活発で、生き生きとした感じの、女性の先生でした。
当時、おそらく40代だったんじゃないかと思います。
おしゃべり好きの、ちょっと変わった先生で。
よく授業中に、教室で生徒に向かって、色んな話を聞かせてくださいました。
時々、美術とはまったく関係ない話の時もありましたが。
(ワニを飼ってた話、とか…)
先生の話はどれもとても面白く、生徒たちをぐっと惹きつけるものでした。
その中でも、特に強く印象に残っているのが、先生が高校生の時に、ピカソに会った話です。
ここで、ちょっとお断りしておきたいのですが。
残念ながらこの話、私の記憶が曖昧な箇所がいくつもあります。
なにしろ40年も前に聞いた話。それも授業中に、たった一度聞いたきりです。
ですから、細かいところがちょっとあやふやで。
たとえば先ほど、「先生が高校生の時に、ピカソに会った話」と書きました。
でも、もしかしたら高校ではなく、中学生の時だったかもしれません。
どうもそこが、はっきりと思い出せないのです。
でもまあ、あまり大きな違いはありません。
とにかくK先生は、中学か高校生の時に、ピカソに会ったのです。
あのピカソに。すごい事です。
そんなわけで、とりあえず、高校生ということで話を進めたいと思います。
K先生は、美術の教師というだけあって、子供の頃から色んな絵画が好きだったそうです。
その中でも、いちばん強烈な印象を受けたのが、ピカソでした。
初めてピカソの絵を見たのは小学生の時で、親が持っていた美術全集のような本で見たのだと言っていました。
その時の衝撃は本当に凄まじく、
なんじゃこりゃ〜〜!!
と驚き、すごい衝撃を受けたそうです。
そりゃそうですよね。
ピカソの絵というのは、みなさんご存知の通り。
常識的な絵画からは、とても大きくかけ離れたものです。
こんなのとか、
こんなのとかね。
誰だって初めて見た時には、なんじゃこりゃ、と思いますよね。
こんなこと言っちゃなんですが、子供の落書きにしか見えない。
そういうものも多いです。
ですから当然、小学生だったK先生もまた、大きな衝撃を受けました。
なんじゃこりゃ〜〜! と。
でも、単なる「なんじゃこりゃ」では終わらないのが、彼女のすごいところです。
子供だったK先生は、深く深く考え込みました。
この人は、一体なぜ、こんな訳のわからない絵を描くのだろう?
何をどういう風に見れば、こんな変な絵が生まれるのだろう?
子供として当然の疑問ですよね。誰だってそう思います。
K先生も、ピカソのいろんな絵を見ながら、とことん考えました。
きっと自分でも、真似して描いてみたりしたんじゃないでしょうか。
でも、いくら考えてもわからない。
それでいつしか彼女は、
こんな変な絵を描くピカソに、一度会ってみたい。
会って直接、
あなたは一体なぜ、こんな変な絵を描くのですか?
と聞いてみたい。
そんな風に、強く強く思うようになったのだそうです。
きっと、そんな風に思っていたのは、彼女だけではなかった筈です。
日本中で、大人も子供も、たくさんの人がそう思っていたことでしょう。
でも、強く強くその思いを持ち続けていた彼女は、
なんと本当に、ピカソに会うチャンスを掴んだのです。
とてもシンプルに、大胆な方法で。