正月休みのだらだらした生活が続き、ちょっと体がなまってきたので、山に登ってきました。
といっても、別に遠くに行ったわけではありません。
すぐ近くのほんの小さな山に、パッと登ってさっと降りてきただけですが。
それでも、久しぶりに体を動かすことができました。
細い山道をひとりで、えっちらおっちら登っていると、色んなことを考えます。
それで、久しぶりに思い出したことがあったので、ちょっと書いておきたいと思います。
来月、HOLOSさん主催の「宇宙学講座」で、保江邦夫先生と、川崎愛さんという女性の講演&サイン会が開催されます。
お二人が対談本を出版されるということで、その記念講演です。
今日、山道を歩きながら、その講演のことを考えていたら、ふと何か、頭の奥に引っかかるものがありました。
「対談本」「出版記念」「サイン会」というワード。
何か、以前にも同じようなイベントに行ったような気がします。
だいぶ前に。なんだったっけ?
ゆっくりと山道を歩きながら考えていたら、だんだん思い出してきました。
もう、かなり前の話です。
20年くらい前かもしれません。
スリランカ上座仏教の、アルボムッレ・スマナサーラ長老が、作家の立松和平さんと対談本を出されたことがありまして。
その出版記念のイベントが開かれたのです。
スマナサーラ長老と、立松和平さんのお二人が講演されて、その後はサイン会、というイベントでした。
場所は確か、東京の千駄ヶ谷だったと思います。
山道を歩きながら、だんだんと、その時のことを思い出しました。
特に強く印象に残っているのが、立松和平さんの笑顔です。
講演が終わった後、参加者がぞろぞろと列をつくって、演台のお二人のところに行き、本にサインをいただいたのですが。
その時、椅子に座った立松和平さんが、サインをしながら「ニッ」と笑われたのです。
その笑顔が、とても柔和で。
ああ、この人はとても優しくて、そしてとてもシャイな方なんだな、と。
そう思ったのでした。
もう、ずっと忘れていたのですが。
なぜか今日、細い山道をえっちらおっちらと登りながら、その時の笑顔が、ありありと浮かびました。
本当に、「ニッ」という感じだったのです。
立松和平さんという方は、後年、小説の盗作疑惑というスキャンダルがあり。
小説家としては、残念ながら、あまり幸せな終わり方ではありませんでした。
私は立松さんの小説作品を、実はひとつも読んだことがなく。
だから詳しいことは全くわからないのですが。
ただ、その盗作問題で騒がれていた時に、あのサインをいただいた時の柔和な笑顔を思い出して。あんなに優しい笑顔の方が、そんなスキャンダルを起こすということが信じられず。
なんだか悶々とした感じを、漠然と抱いていたのでした。
もう20年近く前のことなので、自分の中からはすっかり消えていたのですが。
今日、ひとりで山道を歩きながら、なぜかその頃の感覚が鮮やかに蘇ってきて。
「ニッ」という笑顔が、何回も浮かび。
そして、なぜか涙が止まらなくなりました。
細い細い山道を、ゆっくりと、えっちらおっちら登りながら、
ぽろぽろ、ぽろぽろと、泣いていたのでした。
一体なぜ、こんなことを急に思い出したのか、よくわかりませんが。
ひとりで山道を歩いていると、色んなことを考えるものですね。
あの時のサイン本は、今どこにあるだろう。
クローゼットの奥、段ボールのどこかに眠っているはずです。
今度、久しぶりに探してみようかな。
そんなことを考えながら、帰ってきたのでした。
というわけで、今年初めての、短い山登りでした。
えっちら、おっちら。