少し下って、五大堂というお堂に向かいます。
このあたりが、立石寺で一番の絶景ポイントでして。
お堂から、広々とした山並みを一望する事ができます。
ところが、ところが。
なんとそのお堂で、熱中症の方に遭遇してしまったのです。
これから立石寺に行かれる方に、ぜひ注意していただきたいので。
起こったことを、少し詳しく書かせていただきます。
お堂から、美しい景色を写真に収めていた時です。
うしろで、「大丈夫ですか?」という女性の声が聞こえました。
振り向くと、60代半ばくらいの年配の男性がおひとり、
よろよろ、という感じで、お堂の床に座り込んでいます。
その傍らで、これも60代くらいの女性が心配そうに覗き込んで、
「大丈夫ですか?」と声をかけていたのです。
男性は、「大丈夫です、大丈夫です」と繰り返しながら、
でも、ぺったりと床に座り込んで、つらそうです。
見ると、額にびっしょりと汗をかいています。
マスクもつけているので、とても暑そうです。
熱中症なら、すぐに冷ましてあげなければなりません。
私は男性にのところへ行って、
「マスクは外したほうがいいですから、取りますよ」
と声をかけ、男性の耳からマスクを外しました。
そして男性が被っていた帽子も取ってあげて、
その帽子をばっさばっさと扇いで、男性に風を送りました。
すると傍らの女性も、ご自分の帽子を同じように扇いで、
風を送ってくれました。
「何か飲み物を持っていますか?」
扇ぎながら彼女が聞くと、男性は首を振りました。
なんとこの男性は、何も水分補給をせずにここまで登ってこられたのです。
これは、かなり無謀です。
本当なら、すぐに水分補給をするべきなのですが。
まさか、自分の飲みかけの水をあげるわけにもいきません。
仕方ないので、しばらくそうして風を送ってあげたところ、
それでも少しは状態が落ちついたようです。
男性は「ありがとうございます」と恐縮した感じで繰り返していました。
あまりずっと側にいるのも、かえって男性に気を遣わせてしまう気がしたので、
私は男性に帽子を手渡して、離れました。
そうしてしばらく、お堂からの景色を眺めて写真を撮りました。
でも、やっぱり気になります。
このまま座り込んだ男性を残して山を降りるのは、よくない気がしました。
せめて、水分補給はしないと危なそうです。
そうだ、さっきの売店へ行って、ポカリスエットを買ってきてあげよう。
そう思いつきました。
私は、床に座り込んだままの男性を残してお堂を出ると、
売店のほうへ登って行こうとしました。
すると、石段の向こうから、年配の女性が小走りでやってきます。
先ほど一緒に、男性を介抱してくださった女性です。
あれ?どうしたのだろう、と思って話を聞いたところ。
彼女はもう、一足先に、売店へ行ってくれていたのです。
彼女が「お堂で具合が悪くなった方がいる」と売店の方に話したところ、
なんと、ただでポカリスエットをくれたそうで。
そしてさらに、売店の方は、
「熱中症は、お塩を舐めると即効性がありますよ」
と言って、塩を下さったのだそうです。
彼女は、小さなラップにくるんだ塩を見せてくれました。
すごいですね。素晴らしい連携プレーです。
私はその年配の女性と一緒に、お堂に戻りました。
先ほどの男性は、まだお堂の床に座り込んだままです。
律儀に、またマスクをつけていらっしゃいました。
「熱がこもりますから、マスクは外したほうがいいですよ」
そう女性が声をかけ、男性にポカリスエットを渡して、事情を話しました。
男性はとても驚いた様子でしたが、
「ありがとうございます」を繰り返しながら、
手渡されたポカリを飲んでくれました。
「どうぞ、お塩も舐めてください」
女性が優しくそう声をかけて、ラップに包んだ塩を渡しました。
「これも売店でくれたんです。お塩は、即効性があるそうですよ」
男性は、恐縮した感じで何度もお礼を繰り返し、塩をつまんで舐めました。
「私もちょっと貰いますね」
女性はそう言って、ご自身も塩をつまんで舐めていました。
その様子を見ていると、ああ、もう大丈夫、という感じがしました。
男性の額の汗も、だいぶ引いているようです。
私は男性から離れ、またしばらく、お堂からの景色を眺めた後、
「それではお大事に」と声をかけ、お堂を後にしました。
これが、すべての顛末です。
というわけで。
ここでもう一度、声を大にして言いたいと思います。
立石寺を参拝される皆さん、
熱中症に十分に注意を!
水分補給をお忘れなく!
これから8月、さらにさらに暑い日々が続きますからね。
体調に注意して、よい参拝を!