ぼっこメモ

メモですから、ほんと。メモです。

手を振っていたクマ

 

近所のスーパーに、一頭のクマがいるのです。

とても大きな、クマのぬいぐるみ。

 

 

かわいいクマですね。

今はこんな風に、寝転がっていますが。

以前は、もう少しお行儀よく、

棚に腰掛けて、こちらを見ていました。

 

でもこのクマ、ちょっと不思議なことがありまして。

 

もう何ヶ月も前のことです。

初めて、このクマを見かけた時のこと。

 

その時、私はこのスーパーが入っている、

駅前ビルの地下街を歩いていました。

 

夕方で。

地下街は、たくさんの買い物客でごった返していて。

その中を歩いていた時に、ふと、横から視線を感じたのです。

 

見上げると、人混みの向こうにスーパーの棚が見えて。

その商品棚に座ったクマが、手を振っていたのです。

こちらに向かって、ゆっくりと。

右手を振っていました。

おーい、みたいな感じで。

 

ふーん、面白いぬいぐるみだな。

そう思いました。

 

そんな風に、手が動く仕掛けになっているんだな。

そう思いながら、そのまま通り過ぎて。

地下街の奥にある中華屋さんに行って、ご飯を食べました。

 

その帰り。

さっきのスーパーの前を通ったので、

クマのところに寄ってみました。

どんな仕掛けになっているのかな、と思って。

 

すると。

それは、ただのぬいぐるみのクマでした。

 

大きなぬいぐるみのクマが、

ただ商品棚に座っているだけなのです。

動くような仕掛けは、何もありません。

 

え?

それじゃさっき、手を振っていたのは、なに??

 

私はクマの前に立ち尽くして、

しばらく呆然としていました。

 

頭の中が、?マークでいっぱいです。

どうにも釈然としない思いで、

その場を立ち去ったのでした。

 

それ以来、どうもそのクマのことが気になりまして。

地下街を通るたびに、観察しているのです。

でも、一度も手を振ってはくれません。

 

あれはやっぱり、何かの見間違いだったのだろうか。

でも、本当に手を振っていたのです。

 

もしかしたら。

あまりこちらが注意して、ジロジロ見ると、

向こうも気まずいのかもしれない。

そう思いまして。

もう、全く気にしないようにして、

いかにも「何でもないですよー」という風を装って、

すーっと前を横切ってみたり。

 

遠く離れたところから、

こちらからそっと手を振ってみたり。

 

色々と試してみたのですが。

やはり、駄目でした。

手は振ってくれません。

 

今日も、久しぶりに地下街へ行きまして。

中華屋さんでご飯を食べて、

帰りにスーパーの前を通りました。

 

でも、今日はこんな感じです。

なんだか、ぐでんとしてまして。

これはさすがに、手は振ってくれなさそう。

 

 

あの時。

手を振ってくれていたクマに気づいた、あの時に、

クマのところに行けばよかった。

今さらながら、そう思います。

せっかく、呼んでくれていたのだから。

行けばよかったのです。

もう遅い話ですが。

 

あの時、確かに手を振っていたのです。

棚の上から、おーい、みたいな感じで。