ぼっこメモ

メモですから、ほんと。メモです。

秩父のウインドウ犬


今日は、関東全域に大雪警報が出まして。

ここ江ノ島の近くでも、昼過ぎからずっと雪が降り続いています。

 

今も外から強い風の音が聞こえ、時折ガラス窓に、雨だか雪だかの打ちつける音が、びしびしと響いてきます。
明日の朝はきっと、一面の銀世界になっていそうです。

 

さっき、見るともなく夜のニュースを見ていたら、画面の横に積雪情報が流れていて。

あちらこちらの積雪を伝えていたのですが。

その中で、「秩父地方 積雪30センチ」というのを目にしました。

 

それで、ふと思い出したのです。

秩父のウインドウ犬のことを。

 

一体、何の事かといいますと。

 

昨年の9月に、秩父に行った時のこと。

どこかで夕食を食べようと、泊まっていたホテルを出て、

前の道を渡ったそこに、犬がいたのです。

 

 

通りに面した、一軒のお宅。

その部屋の真ん中に、犬がいて、じっと通りを見つめていました。

 

それは、不思議な空間でした。

きれいに片付けられて、がらんとした部屋。

その真ん中で、敷物の上に、じっと座る一匹の犬。

ぼうっと薄暗く、やわらかに部屋を満たす、光と影。

 

犬は、一面のガラス張りの向こうから、じっと通りを見ています。

そして逆に、外側からも、部屋の中がはっきりと見えます。

まるでショー・ウインドウのようです。

それで私は、その犬を「ウインドウ犬(けん)」と名づけたのです。

 

私は近づいてしゃがみ込み、ガラス越しに犬を見つめました。

犬も私を見つめました。

おーい、と呼びかけて、手を振ってみます。

でも犬は、特に興味を示すような様子はなく、ただじっと座ったままでした。

 

そうしてしばらく見ていると、犬がとてもリラックスしている様子が伝わってきました。

この犬は、こうしてじっと、外を眺めていることが、とても好きなんだ。

そう思いました。

 

だから私は、すぐに立ち上がりました。

あまりじっと見つめて、緊張させてはかわいそうです。

バイバイ、とまた手を振ってみましたが、相変わらず犬はじっとしたままでした。

 

そうして、私はその場を離れ、

近くをぶらぶら歩いて、見つけたお店に入りました。

そこでご飯を食べ、1時間ほどゆっくりして、戻ってみると。

まだ犬は、じっと外を見ていました。

さっきと全く同じ姿勢で。

本当に、こうして外を見るのが好きな犬なのです。

 

 

さっきテレビで、「秩父地方 積雪30センチ」という積雪情報を見て。

突然、そのウインドウ犬のことを思い出したのです。

急にスイッチが入ったみたいに。

 

あの犬は元気にしているかな。

こんな寒い雪の夜でも、やっぱりあの時と同じようにしているのだろうか。

部屋の真ん中にじっと座って、通りを眺めているのだろうか。

道を行き交う人の流れや、車のヘッドライトを見ているのかな。

それとも、暗い夜空から静かに舞い降りる雪を、

不思議そうに見上げたりしているのだろうか。

 

さっき、そんなことを考えていたのでした。

 

なんとなく、窓の外に広がる暗闇の向こうへ、

「おーい」と、小さな声で呼びかけてみたりしながら。

 

いつかまた、きっと会いに行きたい。

秩父の、夜の、ウインドウ犬。