ぼっこメモ

メモですから、ほんと。メモです。

保江邦夫先生の「宇宙学」講座 2016年4月(その10)空外から岡潔へ、そして湯川秀樹へと続く道

1ヶ月前、名古屋で、あるお坊さんと話をしていた時のことです。

そのお坊さんに、僕は湯川先生の思い出話をしていました。

湯川先生が晩年に「素領域理論」(そりょういき りろん)というのを考えていらっしゃったんですよ、と話をしていたら、

そのお坊さんが、「ああ、あの話ですね」と言うんです。

僕はとてもびっくりしました。

だって、お坊さんですよ。まさか湯川先生の物理理論を知ってるなんて思わない。

それで、え?湯川先生の理論をご存知なんですか?と聞いたら、

「ええ、知っています」と。そして、

「実は、あの理論は、もっと深いところから来ているんですよ」と仰って、こんな驚くべき話をして下さいました。

 

湯川先生は、京都の旧制三高を卒業して、京都大学に入って物理学を専攻されました。

その旧制三高で、湯川先生に数学を教えていた、岡潔(おか きよし)という先生がいらっしゃいます。日本が誇る、世界有数の数学者です。

理科系の学生、特に数学をやっている人なら、みんな知っています。非常に優れた数学者なんです。ただし、この人は変人でした。

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岡潔(おか きよし)

岡潔先生は、旧制三高で数学を教えた後、奈良女子大学の数学の教授になりました。そこで定年を迎えるまで、ずっと奈良女子大の教授だったんですが、すごい逸話を残しています。

 

ある時、数学の授業をしていた時に、女子学生を当てて答えさせたら、全然答えられなかったんですね。

それで岡潔先生は怒って、

バカモーン、裸になって立ってろ!」と言いまして。

言われた女子大生は、なんと本当に裸になって、教室の隅で立っていたんです。

すごいでしょ。これ、有名な話です。

 

僕も今、女子大で数学と物理を教えていますが、もし僕がこんなことやったらクビです(笑)。セクハラ委員会に訴えられて、即、懲戒免職です。

でも、当時は平気だったんです。クビにはならなかったんですが、さすがに当時でも、これはちょっと問題になりまして。岡先生は、奈良女子大に居づらい雰囲気になってしまったんです。

 

その時、湯川先生はもうノーベル賞を受賞された後で、京都大学の研究所にいました。

それで湯川先生は、昔の恩師である岡潔先生の窮地を知って、助け舟を出しました。

岡先生に、「しばらく京都大学においで下さいませんか」と言って、京大にお招きしたんですね。救いの手を差し伸べたんです。

そんなわけで岡潔先生は、2年間、京都大学に迎えられました。

そしてその2年間が、湯川先生にとって、最も貴重な時期になったんです。

 

湯川先生って、閃きは天才的で凄いんですが、実を言うと、計算はあまり得意ではありませんでした。

これはいまだに京大で語り継がれていますが、湯川先生は物理の授業で黒板に数式を書きながら計算していると、時々間違えるんですね。

それで教室の学生が気づいて「先生、そこ間違ってます」と指摘しても、どこが間違っているのか、ご自分では分からない。

そういう時、湯川先生は授業中に岡潔先生を呼んで、黒板の間違いを直してもらう、なんてことがあったそうです。

僕、このエピソードが好きでね。

いいでしょ。ノーベル賞を受賞された湯川先生が、大勢の学生たちの前で、高校時代の恩師に助けてもらうなんて、微笑ましいじゃないですか。

 

でも、それだけじゃないんです。

実は、岡潔は当時、あるお坊さんに傾倒していました。

光明派(こうみょうは)という浄土宗の一派があるんですが、そこのお坊さんで、空外(くうがい)という人がいました。

岡潔は、この空外上人(くうがい しょうにん)の下について、教えを受けていたんです。

岡潔という人は、「多変数複素関数」(たへんすう ふくそ かんすうろん)という天才的な理論を打ち立てた凄い数学者ですが、その数学的な閃きをどうやって見つけたかというと、実は、仮死状態で見つけたんです。

何日も何日も、意識不明の仮死状態のようになって。その意識不明の間に真理の世界をさまよって、素晴らしい数学のアイデアを見つけて来てたんです。

そして意識が戻った後で、世界中の数学者が驚くような論文を、どんどん出して行ったわけですね。だから、そのきっかけを作ったのが空外上人でした。

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山本空外(やまもと くうがい)

空外上人は、もともと広島にいらっしゃいまして。戦争中に、原爆の被害に遭われました。その後お坊さんになって、光明派の重鎮になられたという方です。

岡潔は、この空外上人に傾倒して、そこへ湯川秀樹を連れて行ったんです。

そして湯川秀樹も、空外上人の教えから、非常に大きな影響を受けました。

 

/////(ひとことメモ)/////

山本空外上人と岡潔については、保江先生ご自身がWebページのエッセイで解説されています。こちらをご覧ください。

一年が経ちました | 星辰館〜保江邦夫オフィシャルサイト

また、このコラムで紹介されている岡潔の写真(犬といっしょにジャンプしている)はとても有名なものです。岡潔の随筆『風蘭』に、この写真を撮影した時のエピソードが語られています。面白いのでおすすめです。

/////(ひとことメモ おわり)/////