ぼっこメモ

メモですから、ほんと。メモです。

保江邦夫先生の「宇宙学」講座 2016年4月(その3)神様ってエコひいき

えー、では今から、難しい話をするんですが。
皆さん1月からずっと来られている方にはもう、ご説明してるんですが、この世の成り立ちについて。
例えばこの部屋。今、私たちがいるこの広がり。空間。
この空間というものは、ノペーっとした単なる広がりが、ズデーっと遥か彼方の宇宙の果てまで広がっていて、そこに様々な物質が、色んな動きをしていると、まあ、普通はそう考えてきたわけです。
それに対して世界で初めて疑問を抱いたのが、ヨーロッパではアインシュタインという物理学者です。彼がまず最初に、本当にそうだろうかと。空間というものは単なる空っぽの容れもので、それ以外の性質は何も無いんだろうかと、疑問に思いました。で、そうやって生まれたのが相対性理論です。皆さん、名前は聞いたことがあると思います。SF映画にもよく出てきます。光より速く動くと過去に進むとか、色んな話があります。

相対性理論は1910年代の初めに、アインシュタインによって提唱されました。それで、空間というのは曲がったり変化したりする物なんだと。曲がりすぎるとブラックホールと言って、もう光すら出て来れなくなって真っ暗に見えるとか、そういうことが言われ始めたわけです。
でも、これで終わりではありませんでした。

 

相対性理論が出てから約50年後、1960年代に入って、今度は日本の湯川秀樹(ゆかわ ひでき)先生が、空間についての新しい理論を出されました。

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湯川秀樹

アインシュタインは、ノペーっとしているこの空間が、実はノペーっとしてるんじゃなくて、曲がってるかもしれない、そう言ったわけです。
でも湯川先生は、もっと過激で、根本的なことを仰った。

湯川先生は、ちょうど向こうの透明なガラスのようにノペーっとして見えるこの空間が、実は、こっちの凸凹ガラスのように、非常に細かいブツブツで出来ているんだ、ということを述べたんです。

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凸凹ガラスの細かいブツブツ

湯川先生は、空間を構成しているそのブツブツのことを「素領域」(そりょういき)と名づけました。これが、「素領域理論」(そりょういき りろん)です。

アインシュタインが空間の持つ性質について述べたのに対し、湯川先生は、空間そのものがどのように構成されているか、その仕組みを世界で初めて理論的に提唱されたわけです。

 

この素領域理論は、正しいのかどうか、という証明が難しいんです。
例えば、アインシュタイン相対性理論アインシュタインは、空間は曲がるんだと言いましたが、それが正しい事は、重力レンズという現象を観測する事で、間接的に証明されました。
重力レンズというのは、重力によって空間が曲がり、その結果、そこを通った光が曲がるという現象です。これが実際に観測されて、相対性理論は正しいということが、間接的に証明されたわけです。
一方で、湯川先生の素領域理論は、非常に小さいスケールの話なので、証明ができないんですよ。見ようとしても、直接には見えないんですよ。今の科学技術ではどうしようもないくらい小さいスケールの話なので、相対性理論みたいな証明はなかなか難しい。でも、間接的な証拠は色々あります。

その間接的な証拠というのは…、ちょっとここに大きく書きますね。

(ホワイトボードを前に出す)

 

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シュレーディンガー方程式

 

これはシュレーディンガー方程式といって、物理学の最も基本的な理論です。1926年に、物理学者のシュレーディンガーが発見しました。
この方程式のすごいところは、この宇宙に存在する、ありとあらゆる物に当てはめる事が出来る、という事です。たった1個の素粒子から、銀河全体、宇宙全体まで、とにかくありとあらゆる物の性質が、この方程式を解く事で分かるんです。そういう万能な、根本的な方程式です。シュレーディンガーは、この方程式を発見した業績で、ノーベル賞を受賞しています。

僕、この方程式が好きなんです。形も好きだし、あらゆる物を説明できるということも好きですが、一番好きなのは、シュレーディンガーさんがこの方程式を見つけた時の話です。

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シュレーディンガー

これ、別にコツコツ勉強して見つけたんじゃないんですよ。
シュレーディンガーさんが37歳の時に、当時住んでたスイスのチューリッヒから、奥さんをチューリッヒの家に置いたまま若い女性とアルプスの山小屋に出かけまして、クリスマス休暇で。そこで1週間くらい滞在して、楽しくやっていたある夜、これを閃いちゃったんです。いいでしょ。(笑)
神様ってエコひいきでしょ。僕なんか日夜コツコツ研究してても何も貰えない。
かたや、こんな風にして方程式に名前が残り、ノーベル賞も貰い、本当に依怙贔屓だと思うんですが。
ただ僕ね、学生だった頃にこの逸話を聞いて、よし俺も頑張ろうと思ったんです。そしたらちょうど大学院の時に、スイスの大学から来ないかという誘いがあって。おお、スイスといえばシュレーディンガーがクリスマス休暇にアルプスの山小屋で女の子とムニャムニャして方程式を見つけた国、じゃあ俺も行こうと、決めたわけです。(笑)

そして本当に運が良く、スイスに行ったその年のクリスマス休暇に、僕も方程式を見つけたんです。今では「ヤスエ方程式」と、僕の名前をつけて頂いている方程式です。ただ、僕の場合は、方程式を閃いたのがアルプスの山小屋じゃなくて、ドイツのアウトバーン(高速道路)でした。